2025年3月、柔道整復療養費の「オンライン請求」に関する中間報告が発表されました。これまで紙ベースで行われていた療養費の請求が、いよいよオンライン化される方向で動いています。
今回の中間報告では、整骨院の現場に直接関わる重要なポイントが示されました。請求方法だけでなく、審査ルール、署名の扱い、復委任(請求代行)の在り方などの内容が含まれています。
本記事では、整骨院経営者や施術者が“今”押さえるべきポイントを、わかりやすくまとめました。
オンライン請求とは?全体像をおさらい
柔道整復療養費のオンライン請求とは、紙の申請書を使わず、インターネットを通じて療養費を請求・審査・支払する新しい仕組みです。整骨院と保険者、審査支払機関をオンラインでつなぐことで、これまで人手に頼っていた処理が大きく変わろうとしています。
制度の目的と効果は大きく4つ
- 不正請求の防止
- 業務の効率化(施術所・保険者双方にメリット)
- 審査の標準化による地域格差の是正
- 施術所への確実な支払い(支払遅延・漏れのリスク軽減)
なお、現行の「受領委任制度」は維持され、その枠組みの中で、請求処理を完全オンライン化する流れです。正式な稼働時期は見直し中ですが、準備は着実に進行中。今のうちから対応しておくことで、現場の混乱を防ぐことができます。
検討委員会中間報告で示された、整骨院に関わる6つの重要ポイント
1. 審査の標準化とコンピュータチェック導入
これまで保険者ごとに異なっていた審査基準が、全国統一に向けて見直されます。オンライン請求では、コンピュータチェックによる審査が導入され、形式や内容の点検が自動化されます。
具体的には
- 不適切な多部位への施術や長期・頻回施術に関する審査
- 施術所単位の傾向審査
- 他制度給付等との併給審査(例:労災・自賠責など)
です。
これにより、データに基づく審査精度の向上と、不正リスクの早期把握が期待されています。
2. 過誤調整が可能に(※事前合意が前提)
これまで原則禁止だった「過誤調整(支払予定額からの相殺)」が、検討されています。患者(被保険者)や保険者等の負担軽減が図られ、かつ、施術管理者に対する迅速かつ適正な療養費支払にもつながるので、オンライン請求の導入に伴い、過誤調整を実施できるようにするのが適当との意見が出されました。
誤請求や資格過誤への対応が、よりスムーズになる一方、患者への説明や同意取得がより重要になります。
※柔道整復療養費のオンライン請求導入等について(中間とりまとめ)参考資料 抜粋
3. 電子署名・電子委任の導入
紙への手書き署名が不要になり、電子的な「委任」の方式が主流になります。これは、毎回の施術内容に患者が同意し、それを記録として残すプロセスに対応したものです。
オンライン資格確認システムを活用するとしても、マイナンバーカードを持っていない場合や何らかの事情でオンライン資格確認を行えなかった場合の署名・代理署名の方法についても、別途検討する方向です。
4. 紙請求・メディア提出は廃止へ
オンライン請求導入後は、紙の申請書やDVD・USBなどの物理メディアによる請求は一切不可となります。請求方法はオンラインに一本化されるため、ネットワーク環境や請求ソフトの対応状況の確認が不可欠です。
また、万が一のシステム障害時に備えたバックアップ体制や申請フローも、各院で準備しておく必要があります。
5. 復委任の見直し(請求代行)
オンライン請求導入の目的の一つに、療養費の施術管理者(施術所)への確実な支払や、請求代行業者等による不正行為の防止があります。
そのため、オンライン請求導入にあたって復委任団体は関与しない仕組みとすべきとの意見が上がっています。
しかし、業界には、小規模な施術所が多い業態であることや、施術所そのものを管理していないことなどを踏まえ、介護保険制度や障害福祉サービス制度で代理請求が行われている例なども参考にしながら、
オンライン請求導入後の復委任の取扱いについて検討していく方向です。
※介護保険制度や障害福祉サービス制度で代理請求については、代理が認められているのは請求のみであり、支払の代理受領は認められていません。
6. 支払先は「施術所単位」で一元管理へ
これまでは支給申請書ごとに支払口座を設定していたため、口座の管理や確認作業が煩雑でした。
今後は、施術所単位で事前登録した口座に対して支払いが行われる形へ一本化されます。
これにより、支払いミスの防止や事務効率の向上が期待されます。
用語解説:「過誤調整」「復委任」「療養費制度」
過誤調整とは?
過誤調整とは、過去に誤って支払われた療養費を、次回以降の支払いから差し引いて調整する手続きです。
通常は「返金請求」という形になりますが、整骨院などでは実務負担が大きく、回収にも時間がかかるケースがあります。
現状と課題
現行制度では、療養費の受給権はあくまで患者(被保険者)にあるため、過去に誤って支払われた療養費を施術管理者の次回支払いから自動的に差し引く「過誤調整」は、法的にも原則認められていません(訴訟判例あり)。
その代替として、患者への返還通知や保険者間での調整が行われているものの、負担が大きく、実際には広く行われていません。
検討の方向性
オンライン請求導入に合わせて、関係者間の明確な合意がある場合に限り、過誤調整を可能にする仕組みを導入すべきと検討されています。
その際には、柔道整復の受領委任に関する協定や取扱規程に、返還義務や差引支払のルールを明記することが検討されています。
また、” 被保険者は契約の当事者ではないため、あらかじめ同意を得るための簡易な仕組み(例:施術時に合意を得る様式等) “の整備も必要です。
さらに、小規模施術所への配慮として、過誤調整ができない場合の代替的な債権回収手段についても検討が求められています。
復委任とは?
復委任とは、療養費の受領を本来の施術所(管理者)が行うのではなく、別の団体や業者に再委任(代理)して行わせることです。
例としては、都道府県柔道整復師会や請求代行業者などが挙げられます。
便利な一方で、不正受給の温床になる可能性もあり、今回の制度改正では原則廃止の方向で議論されています。
ただし、業務負担が大きい小規模院の事情を踏まえ、“請求だけ代理”という形の復委任は残る可能性があります。
療養費制度とは?
療養費制度とは、本来保険診療の対象とならない施術(例:柔道整復、はり、きゅうなど)に対し、
一定の要件を満たす場合に、健康保険から費用の一部または全部が支給される仕組みです。
健康保険法第87条
保険者は、療養の給付若しくは入院時食事療養費、入院時生活療養費若しくは保険外併用療養費の支給(以下この項において「療養の給付等」という。)を行うことが困難であると認めるとき、又は被保険者が保険医療機関等以外の病院、診療所、薬局その他の者から診療、薬剤の支給若しくは手当を受けた場合において、保険者がやむを得ないものと認めるときは、療養の給付等に代えて、療養費を支給することができる。
この条文は、” 「療養の給付(通常の保険診療)」ができない、あるいは行うのが困難な場合に、代わりに“療養費”として保険給付を行うことができる」 “と定めた規定です。
一定の要件とは、
整骨院における療養費は、患者が施術を受けた後に、受領委任に基づいて施術所が保険者へ請求する流れになります。
健康保険制度では、原則として患者(被保険者)は「保険医療機関等(=保険が使える病院や診療所)」で治療を受け、その費用の一部を自己負担し、残りは健康保険から「療養の給付」として支払われます。
しかし、次のような” 例外的な事情 “がある場合には、「療養費」として後から保険給付を行うことが認められています。
療養費が認められるケース
1.保険医療機関等での治療が困難な場合
- 離島や山間部などで保険医療機関が近くにない
- 緊急でやむを得ず、保険外の施術を受けた場合 など
2.被保険者が保険医療機関等以外で施術を受けた場合
- 例:柔道整復師・あん摩マッサージ指圧師など、医師以外の施術者による治療
- ただし、「やむを得ない」と保険者が認めた場合に限る
柔道整復師による施術は、保険医療機関ではないため、原則として「療養費」の枠組みで保険適用されます。つまり、「療養費」とは、通常の医療とは別枠で保険から支給される補助的な保険給付であり、その支給には保険者の判断(やむを得ないと認めるかどうか)が必要です。
この制度によって、患者は窓口での負担を最小限に抑えつつ施術を受けることが可能になっています。
整骨院が今できる「5つの備え」
制度変更が正式にスタートする前に、次の5点を準備しておきましょう。
- オンライン資格確認端末の導入と動作確認
- 療養費請求ソフトやネット環境の整備
- 明細書の発行ルールを整え、習慣化
- 電子委任に備えた患者同意の取得フロー構築
- 復委任業者を利用している場合は契約内容の再確認
まとめ:制度変更をチャンスに変える視点を
オンライン請求の導入は、整骨院経営にとって単なる事務のデジタル化ではなく、“経営の見える化”と“信頼性の向上”への第一歩です。
業務負担が軽くなるだけでなく、不正リスクが減ることで業界全体の信頼性が高まり、結果として“選ばれる整骨院”にもつながっていきます。
本メディアでも、引き続き実務対応や最新情報を発信してまいります。ぜひ今後の動向にご注目ください。