「テニス肘」はその名の通り、テニスの愛好家に生じやすい肘の痛みです。
またスポーツ選手に限らず、仕事や趣味などで手をよく使っている方であれば、どなたでもテニス肘になる可能性はあります。
肘の痛みがあるとプレーに支障が出るばかりか、普段の生活にも支障が及びかねません。
そこで当記事では、テニス肘の発症メカニズムや原因とともに、肘の痛みを緩和するための対処法を詳しく解説しています。
最後まで読むことで、テニス肘に対する知識が深まり、もしテニス肘になってもスムーズな対応ができるでしょう。
テニス肘とは?肘が痛むメカニズムや症状について
テニス肘は肘外側の骨が出っ張っている箇所、上腕骨外側上顆(じょうわんこつがいそくじょうか)付近に痛みが生じる障害です。
正式名称は「上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)」といいます。
参考記事:【腕が痛い】肘から下の痛みやしびれの原因となる病気とは?適切な対処法も紹介
テニス肘のメカニズム
テニス肘は、何らかの原因で短橈側手根伸筋(たんとうそくしゅこんしんきん)の付着部(腱)に過度な負担がかかり、細かい損傷や痛みが起きたものと考えられています。
短橈側手根伸筋は、手首の骨から上腕骨外側上顆にかけて付着している筋肉で、おもに手首を反らせる動きに関与しています。
なぜ肘外側に炎症が起こるのか、その詳しい原因は後ほど詳しく解説していきます。
テニス肘の症状
テニス肘のおもな症状は、肘の外側から前腕(ぜんわん:肘と手首の間部分)にかけての痛みです。特に手首を反らせる、内側にひねる、指を伸ばすといった動きで患部の痛みが誘発されます。
テニスのバックハンドをはじめ、日常生活では「ものをつかんで持ち上げる」「雑巾を絞る」「ドアノブを回す」「パソコンのキーボードをうつ」といった動作で痛みが出やすいです。
テニス肘の症状は、基本的に圧痛(患部を押したときの痛み)や運動時の痛みに限られます。しかし、無理をして炎症を悪化させると、安静時も強く痛んでくる場合があります。
この痛みはテニス肘!?自分でわかるチェック方法を3つ解説
自分がテニス肘がどうか、簡単にチェックできる方法があります。
次のような動作(テスト)を行った際、肘の外側部分に痛みが出てくる場合は、テニス肘の可能性が高いです。
- トムゼンテスト:反対側の手で痛みが出ている側の手の甲を上からおさえつつ、手首を反らせる
- 中指伸展テスト:手首と指を伸ばした状態で、反対側の手で痛みが出ている側の中指を上から押す
- チェアテスト:肘を伸ばした状態で、椅子をつかんで持ち上げる
上記のテストで肘の外側に痛みが出現する場合は、放置せず早めの対処を行いましょう。
【要確認】テニス肘のおもな原因
テニス肘への適切なケアができるよう、なぜ肘を痛めてしまうのか、その原因を理解しておきましょう。
手首の使いすぎ(オーバーユース)
テニス肘のおもな原因には「手の酷使」が考えられています。
特に「手首を反らせる動作」や「指を伸ばす動作」などを繰り返すことで、肘外側の腱の付着部に負担が積み重なり、炎症を起こしてしまうのです。
テニスをはじめ、卓球やバドミントン、剣道、ゴルフといった道具を強く握って振るようなスポーツでの発症が多くなっております。
また、仕事や家事、趣味などで手をよく使う方であれば、スポーツをしていなくても肘を痛める可能性はあります。
スポーツ以外でテニス肘になりやすいのは、次のような方々です。
- 配送業など重たいものを運ぶ人
- 重たい鍋を振る料理人
- 家事をする主婦、主夫
- 大工や配管工など手首をよく使う人
その他、特に体を動かさなくとも、デスクワークでマウスやキーボード操作をしている方、長時間ゲームをしている方などにもテニス肘はよくみられます。
加齢
加齢とともに筋力や腱の強度が低下してくるため、同じ動作でも腱を痛めて炎症を生じやすくなります。年齢の影響からか、若い方よりも中年以降の方にテニス肘は多いといわれています。
体の使い方の間違い
「力んでラケットを強く握る」「体幹からではなく、肘や手首の力に頼ってボールを打つ」など、悪い運動フォームによって肘に余計な負担をかけている場合があります。
特にスポーツをまだ始めたばかりの初心者であれば、使いすぎに加えて、体の使い方の間違いが影響してテニス肘になるリスクが高くなります。
ウォーミングアップ不足
ウォーミングアップ不足で筋肉がまだ硬い状態で運動を開始すると、手首を動かした際に腱に強いストレスがかかってしまいます。
また、準備運動不足では全身の動きも悪くなるため、フォームの乱れにつながり肘を痛めてしまうこともあるでしょう。
自分でも簡単にできる!テニス肘への5つの対処法
テニス肘の痛みを緩和するためにも、次のようなセルフケアを行いましょう。
急性期は安静にしよう
肘の痛みがあるときは、なるべく手を休ませるようにしてください。初期の段階でしっかりと安静にできれば、その分痛みも早期に改善しやすくなります。
また、仕事や家事で手をなかなか休められないという方であれば、サポーターを着用すると筋肉の動きを制限できるため、肘外側の付着部にかかる負担を軽減できます。
スポーツ後はアイシングを徹底
運動後は氷嚢(ひょうのう:アイシングを行うための氷水を入れた袋)を当てて、肘の外側を冷やしましょう。
冷却を行うと血管が収縮して腫れや炎症を抑えられるほか、運動で高まった筋温を下げることで疲労回復の効果も期待できます。
しかし、冷やしすぎると血行が悪くなってしまうため、一度の冷却時間は5〜10分を目安にしてください。
湿布も効果的
強い痛みがある場合は、肘の外側に湿布を貼りましょう。湿布に含まれる消炎鎮痛成分が肌から浸透し、テニス肘の痛みをやわらげる作用を期待できます。
しかし、湿布は痛みを一時的に抑えているにすぎません。症状が軽くなったからとそのまま運動を続けるのではなく、安静やアイシング、ストレッチなどのセルフケアもあわせて行うようにしてください。
筋肉のマッサージ
痛みの出ない範囲で、前腕の筋肉をマッサージしましょう。マッサージを行うことで腱への血行が促され、症状の回復に必要な酸素や栄養が運搬されやすくなります。
楽に筋肉をほぐせるマッサージがありますので、下記でその方法をご確認ください。
腕のストレッチ
ストレッチで筋肉の柔軟性を高めることにより、肘の外側に付着する腱への負担を軽減できます。
テニス肘に対しては、手首を反らせて前腕を伸ばすようなストレッチが有効とされています。
痛みの出ない範囲で、ゆっくりと筋肉を伸ばすように意識してください。
具体的なやり方については、後ほど詳しく解説していきます。
テニス肘を早期に改善するおすすめストレッチ・トレーニング3選
それでは、テニス肘に効果的なストレッチやマッサージ、トレーニングの方法をみていきましょう。
腕の前面のストレッチ
手首を反らせるようにして行うストレッチです。こちらのストレッチを行うと前腕前面の緊張がゆるまり、手首を動かしても筋肉の付着部に負担がかかりにくくなります。
STEP2:反対側の手を添えましょう
STEP3:手を手前に引きましょう
STEP4:元の姿勢に戻りましょう
STEP5:繰り返し実施しましょう
※腕の前面が伸びている状態を保持しましょう
※手首に痛みがある場合は肘を曲げてもOKです
腕のセルフマッサージ
ストレッチと同様、腱付着部への負担を減らすためにマッサージで前腕の硬さをとっていきましょう。
STEP2:腕をつまみながら内側に回しましょう
STEP3:繰り返し実施しましょう
筋肉をつかむ箇所は一箇所に限らず、軽く上下に動かし広い範囲をほぐすようにしてください。
指の筋トレ
虫様筋(ちゅうようきん)と呼ばれる、親指を除く4本の指の骨に付着する筋肉を鍛えるトレーニングです。
虫様筋を鍛えることで手指の細かい動きが制御できるようになり、その結果テニス肘の原因となる前腕から肘にかかる負担を減らせます。
STEP2:指の付け根の関節を曲げましょう
STEP3:元に戻しましょう
STEP4:繰り返し動かしましょう
STEP5:繰り返し実施しましょう
指の第一関節が曲がらないように気をつけ、手の甲や手のひらあたり、指の間の筋肉に負荷がかかるように意識してください。
【再発防止】普段からできるテニス肘の予防策
肘の痛みを繰り返している方は、普段から次のような対策を行い、テニス肘を予防していきましょう。
テーピングやサポーターをつける
スポーツや仕事などで手を使う際には、前腕から肘にかけてテーピングしておくとテニス肘の予防が期待できます。
貼り方の手順は以下の通りです。
まずは5cm幅のキネシオテープをご用意ください。
- 15cm程度の長さを1本、20cm程度の長さを2本カットします
- 20cmのテープを手首の後面から圧痛部位(押して痛い箇所)に向かって貼ります
- 15cmのテープを手首を一周するように貼ります
- 20cmのテープを前腕の一番太くなっている箇所に一周するように巻きつけて貼ります
皮膚への刺激となりますので、キネシオテープを貼る際はなるべく引っ張らないようにしましょう。
貼ったあとは肘を軽く動かしてみて、締め付けすぎていないかご確認ください。
しびれや皮膚のかゆみ、不快感などがある場合は我慢せず、すぐに剥がすようにしてください。
もしテーピングを貼ることが難しければ、肘や前腕を圧迫できるサポーターを使用すると良いでしょう。テニス肘専用のサポーターは、市販もされています。
ウォーミングアップ、クールダウンを徹底しよう
運動前には、入念にウォーミングアップを行いましょう。体の柔軟性を高めたうえで運動を開始することにより、肘周辺の筋肉や腱にかかる負担をやわらげられます。特に運動前においては、以下の点から「動的ストレッチ」が有効と考えられています。
- 代謝や体温をスポーツを行うレベルにまで高められる
- 筋肉を過度に緩めることなく関節の可動域を広げられる
- 筋肉の反応や体の感覚を高められる
動的ストレッチとは、体を動かすことで筋肉をほぐし、可動域を広げていくストレッチのことです。どなたも一度はやったことのある「ラジオ体操」が動的ストレッチの代表例として挙げられます。
また、運動後にクールダウンを行うと、疲労回復にもつなげられることが分かっています。翌日以降に疲れを残さないよう、軽いジョギングやストレッチ(運動後は筋肉をゆっくり伸ばす静的ストレッチ)、セルフマッサージなどを行うと良いでしょう。
参考記事:硬い体を柔らかくする方法を解説!簡単ストレッチやおすすめ食事法で柔軟性アップ
前腕の筋力アップ
テニス肘を予防するには、前腕の筋力を鍛えておくことが大事です。
まずは水の入ったペットボトルをご用意ください。
- 水の入ったペットボトルを手に持ちます
- 机の上に前腕を置いて、手首の位置を固定します
- 肘を伸ばし手のひらを床に向けます
- 反対側の手で支えながら手首を反らせます
- ゆっくり時間をかけて、手首を手のひら側へ曲げていきます
- 手首を最大限曲げたら、再度反対側の手で支えながら手首を反らせます
痛みがある際はペットボトルなしや、肘を曲げた状態で行ってください。
※重さや回数は自身の調子にあわせて調整してください。
テニス肘を放置するとどうなる?
痛みを我慢して腕を使い続けた結果、痛みが強まることで肘を動かせなくなったり、ものをつかんだりできなくなる可能性があります。
また、状態を悪化させて痛みが慢性化し、1年以上症状が取れなくなった場合は、手術が必要になるかもしれません。
症状が軽いうちから安静にできていれば、テニス肘は自然と改善していくケースが多くなっています。
しかし、無理をするほど症状が取れづらくなってしまうため、テニス肘が疑われる際は早めに対処を始めるようにしましょう。
まとめ
今回の記事では、テニス肘の原因や、症状を改善・予防するためのセルフケアを解説しました。
放置して腕を使い続けていると、症状が長期化してしまいます。「まだ軽い痛みだから」「スポーツには支障がないから」とそのままにはせず、なるべく軽症のうちから対処していくことをおすすめしています。
それでは、あなたの肘の痛みの改善に本記事が役立てれば幸いです。
【参考文献】
公益社団法人 日本整形外科学会