1854年にコレラという疫病がロンドンで流行り数十万人が命を落としました。しかし、ジョンスノーという医師が統計学により原因である水道会社を特定して以降、コレラの感染数が激減した事実があります。当たり前の話ですが、このように病気の原因が特定されればその病気にかかる人の数は全体的に減少するはずです。しかし残念なことに、腰痛に関しては診断方法や治療法が進歩しているにも関わらず、腰痛に苦しむ人は年々増えているという事実があります(1).なぜでしょうか?

腰痛というのは様々な病態の総称:特異性腰痛について

まずは腰痛とは何かというお話です。腰痛というその名の通りで”腰が痛い”という意味以外にありません。そこにはたくさんの種類が含まれており、それぞれ別の治療法が存在します。代表的なのは特異性腰痛と呼ばれ、ある病態が原因で痛みなどの症状が出ているものがあります。代表的なものは腫瘍、感染(化膿性脊椎炎)、外傷(椎体骨折)の三つが重要です(2)。この場合、それぞれの原因を取り除かなければ腰痛は改善しません。またこれとは別に腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症などが神経症状を伴うものであれば特異性腰痛と判断され、それらの構造的異常を整える手術などを施行します(1)。

大部分は非特異性腰痛:症状と原因組織がはっきりしない

しかしながら、上記の特異性腰痛は全体の8-15%と言われており,それ以外は画像などに写らない言い換えれば原因がはっきりしない非特異性腰痛と言われています(3)。この場合ほとんどが動きや姿勢の維持に関連するものが多いのも事実です。そのため、レントゲンやMRIなど脊柱を正確に描出する器材を使わず。それら非特異性腰痛を痛みがでる方向によって分類したり、それらに加えて心理や認知的な痛みに関連する要素を洗い出して行くような検査方法をとるアプローチも研究されています(4)。ただこれら手法に関しては、発展途中であり治療効果の証明も十分に確かめられていません。

腰痛の診断は難しい

医学的な話を述べましたが、端的に言えばコレラの流行を止めたような原因について腰痛においてはまだ不明のため腰が痛くてもその痛みの原因を自信を持って説明することは難しいです。非特異性腰痛は詳細な分類方法は研究されているもののまだ発展途上であること、そして上記で述べた腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症や脊椎すべり症などは神経症状が伴えば特異性腰痛に分類されるとされていますが、必ずしもそれらの病態があるからといって症状を起こすとは限りません。なぜなら病態を持っていても症状がない”無症候性”の人々が世の中に存在するからです。すなわちそれらの病態は持っているものの、神経症状がなく腰痛の原因がはっきりしなければ非特異性腰痛と判断されることもあります。

 

(1)Deyo RA, Mirza SK, Turner JA, Martin BI. Overtreating chronic back pain: time to back off? J Am Board Fam Med. 2009;22(1):62-68.

(2)日本整形外科外/日本腰痛学会. 腰痛診療ガイドライン2012. 南江堂. 2012.

(3)Waddell G. The Back Pain Revolution. Edinburgh: Churchill Livingstone 2004

(4)Stieven FF, Gomes da Silva CF, Guariglia F, da Rosa Telles LH, Silva MF. Movement-based subgrouping in low back pain: synergy and divergence in approaches. Physiotherapy. 2016;102(1):120.